AUDIO TECHNICAL REPORT
収録音声のノイズと整音技術についてのレポート
スタジオで収録した音声には、さまざまな理由でノイズが乗ってしまうことがあります。
室内の機器によるノイズ、温度変化による壁鳴り音、紙の台本をめくるときのペーパーノイズ、演者のお腹の音や、口腔内のリップノイズのような、人間が発する普段は気づかないような小さな音も、マイクは拾ってしまいます。
人間がお芝居をしている以上、ノイズの発生をゼロにすることはできません。その場合、ノイズが気になる部分をリテイクすることもできますが、一つの繋がった演技に編集を入れることで、演技本来の自然な流れや表現が失われてしまう場合もあります。
そこで、収録した音声から不要なノイズを取り除くために「整音」という作業を行います。
演者がセリフに乗せた表現を損なうことなく、耳障りに感じてしまうかも知れないリップノイズやブレスノイズ、口腔内で鳴ってしまった様々なノイズを取り除いていきます。そうすることでセリフはより磨き上げられ、表現を余すことなく届けることができるようになります。
しかし、ノイズは単純に「消せばいい」というものでもありません。セリフ以外の部分だからといって不用意にノイズを削っていくと、音と無音部分の境目が不自然になっていきます。
環境が発するノイズは可能な限り少ない状態で収録することが大切です。
特に、消え入るような微かな息遣いは、役者にとって重要な表現の一部です。しかし小さい音ほど周囲のノイズの影響を受けやすく、ノイズ処理を施すことで、そうした微細な表現まで不自然な音になってしまうことがあります。
バイノーラル録音で、小さな音や微細な表現を損なうことなく収録するためには、静けさを極めたブースで収録することも重要なのです。
整音処理の例です
まず、スタジオブースにて収録し、リップノイズ等、演技中にやむを得ず発生したノイズを手作業で処理しました。
マイクはNeumann U87、プリアンプはAMEK Channel In A Box を使用しています。
モノラルマイク
BEFORE / 整音前
AFTER / 整音後
セリフによってはリップノイズが気になる箇所がありましたが、整音によってほぼ除去することができました。 一見ノイズが気になるテイクでも、丁寧な整音処理を施すことで、十分に採用可能なクオリティへと修復できます。
次に、ノイズ処理を行わなくても十分に静かな弊社ブースの収録環境と、ブース以外の環境で実験的に収録した音声の違いを比べてみました。
マイクはNeumann KU100、マイクプリアンプはNEVE1073 DPAを使用しています。
ブース通常収録
BEFORE / 原音
AFTER / 一括整音
聴きどころ:ほぼ処理不要
「ブースでの通常の収録では、役者の動きによる音などは僅かに含まれますが、実用上、ノイズ処理を行わなくても全く問題ないレベルです。」
ブース・ドア開放
BEFORE / 原音
AFTER / 一括整音
聴きどころ:空調音・残響
「次に、マイクのセッティングを変えずに、ブースのドアを開けて収録した例です。ロビーのエアコンの音などが聞こえ、残響も少し増えています。」
コンソールルーム
BEFORE / 原音
AFTER / 一括整音
聴きどころ:PCノイズ・人の動作音
「コンソールルームでの収録は、PCが発するノイズなどが顕著に収録されています。また、同席しているエンジニアの動作音なども収録されています。」
スタジオロビー
BEFORE / 原音
AFTER / 一括整音
聴きどころ:残響・流水音・時計
「スタジオロビーでの収録は、残響や壁の中から聞こえる水が流れるような音、それに加えてアナログ時計の秒針の音が確認できます。会話をしているときよりも残響が強く感じられるのが興味深いところです。」
エレベーターホール
BEFORE / 整音
AFTER / 一括整音
聴きどころ:強い残響・外部ノイズ
「最後はスタジオ入口のエレベーターホールで収録を試みました。
まさに天然のリバーブです。音だけ聴くとエンジニア的には面白い部分もありましたが、当然、通常の収録には不向きです。また、共用部分なので外部のノイズが容赦なく入ります。」
■まとめ■
ブースでの収録は元々のノイズレベルが低いため、ノイズ処理を行っても原音の音質劣化を最小限にすることが可能です。
ブース以外で録音したものは環境によるノイズが多く、そのまま商品にすることは難しいでしょう。それも処理でかなり減らすことができますが、ノイズが大きいほど語尾の余韻や僅かな息遣いなどの、セリフと無音部分との境界にある微細な表現が損なわれ、違和感となって表れてしまうのです。
技術でノイズを取り除く「整音」と、ノイズの少ない収録環境。どちらも弊社にてご提供しております。お気軽にご相談ください。
ロックンバナナスタジオ/ロープライススタジオ エンジニア 大西 航